学校法人における収益事業と付随事業
学校法人において収益事業を始める際の留意点や法人税上などの対応について解説します。また、収益事業との区分が難しい付随事業についても解説し、それらの課税関係を解説します。
どのような事業が収益事業として実施できるか
学校法人は、私立学校法第26条1項にあるように、収益事業を行うには、①学校教育に支障がなく、②その収益を私立学校の経営に充てることが求められます。また、その収益事業は以下のものに限られます(最終改訂平成28年6月23日 文部省告示第96号)。
- 農業、林業
- 漁業
- 鉱業、採石業、砂利採取業
- 建設業
- 製造業(「武器製造業」を除く)
- 電気・ガス・熱供給・水道業
- 情報通信業
- 運輸業、郵便業
- 卸売業、小売業
- 保険業(「保険媒介代理業」及び「保険サービス業」に限る)
- 不動産業(「建物売買業、土地売買業」を除く)、物品賃貸業
- 学術研究、専門・技術サービス業
- 宿泊業、飲食サービス業(「料亭」、「バー、キャバレー」等を除く)
- 生活関連サービス業、娯楽業(「遊戯場」を除く)
- 教育、学習支援業
- 医療、福祉
- 複合サービス事業
- サービス業(他に分類されないもの)
※:上記に該当しても投機的な事業、いわゆる風俗営業などは実施できません。
収益事業と付随事業との違い
よくある事例として、有料の通学バスなど学校の運営に密接な関係のある事業を「付随事業」として行っている学校法人も多いかと思います。付随事業も上記の18種類の事業のうち、学校の運営に密接な関係のあるものであれば実施できるものです。それでは、収益事業と付随事業は何が違いのでしょうか?
簡単に言うと、収益事業と付随事業との違いは、①その事業の規模と②収益性にあります(平成21年2月26日20文科高第855号)。
①事業の規模
付随事業は、概ね事業の規模が、「付随事業の収入が学校法人全体の帰属収入の約23%(30÷130)未満」かつ、「特定の部門において、付随事業の収入が当該部門の帰属収入の約23%(30÷130)未満」であることが求められます。それを超える場合には、収益事業とすることを検討する必要があります。
②収益性
付随事業は、収益と費用が概ね均衡することが求められます。例えば、有料の通学バスであれば学生から徴収するバス代は実費負担としておくと問題にはなりません。利益が一定程度生じる場合には、収益事業とすることを検討する必要があります。
必要な手続き
収益事業を行う場合には、事業の種類や事業に関する規定を寄附行為に定めなければなりません(私学法第30条第1項第9号)。そして、定款の改訂について、所轄庁の認可を受けなければいけません。
また、収益事業はその他の学校法人会計と区分して経理する必要があり、会計システム上の対応も必要になろうかと思います。
税務上の留意点-付随事業であっても課税対象になりうる?-
上記の通り、学校法人が行う収益事業は、18種類の事業に限られています。ここで、ややこしいのですが、私立学校法上の収益事業と法人税法上の収益事業と必ずしも同じではありません。
法人税法上の収益事業は、①物品販売業、席貸料、旅館業(学生寮を除く)、飲食店業(学校給食を除く)など政令で定める34業種で、②事業場(移動販売を含む)を設けて、③継続的に行われている(法人税法2条13項)ケースが該当します。
例えば、売店や食堂などの収入は、付随事業又は収益事業に分類されますが、法人税法では、付随事業又は収益事業収入の分類に関わらず、物品販売業・飲食業として課税される可能性があります。
とは言うものの、上述の通り、付随事業は収支が概ね均衡することが条件になっています。そのため、実務上、付随事業から課税対象となる「利益」が発生するケースは少なく、また、仮に「利益」が生じたとしても僅少であることが多いため、「付随事業であるが、法人税法上は収益事業である」場合の課税関係はグレーゾーンになっています。
一方で、「私立学校法上の収益事業であり、かつ、法人税法上の収益事業である」場合は、法人税の申告、納付が必要になるケースが多くなります。
また、法人税の申告、納付が必要なときは、地方税である法人事業税や住民税の申告も必要になります。
なお、「みなし寄付金」の制度があり、法人税法上の収益事業から生じた利益の一部(収益事業の所得の50%又は200万円のいずれか大きい方)を学校法人会計に「寄付」したとみなして損金に算入することができます。
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